意外と流動的!変化する国歌から見えてくる世界

しっかりかっちり歌詞やメロディが決まっているのが国歌

そんな風に思っていませんか?皆さんの知らない所でコロコロ変わっている歌詞やメロディ。その変化をみれば国家情勢や、その時代の流れを感じることができるでしょう。

CASEⅠ 政変で・・・リビア国歌

記憶に新しいアラブの春。マグレブ諸国ではチュニジアともう1つ長期政権が倒れた国がありました。

リビアです。

1969年、王政をクーデターにより廃止して以来アラブの春まで同国を率いてきたカダフィは実権を握った際国旗と国歌を変更しました。厳格なイスラム国家を作りあげるという目標を体現するように歌詞は「アッラーアクバル(アッラーは偉大なり)」を連呼する歌詞を採用。そもそも曲名が『アッラーは偉大なり』なんです。カダフィ政権のやり方には賛否あるものの、国歌は個人的に好きでした。国歌好きには全編空耳で歌詞が書ける国歌として知られています。

しかし2011年に起きたアラブの春によりカダフィが失脚、民兵によって殺害されると反カダフィ勢力によって組織されたリビア国民評議会が国を運営する事となります。国名は“大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国”から“リビア”に改名。この政変に合わせて国歌も『リビア リビア リビア』に変更されました。

実はこの曲、カダフィがクーデターを起こす前まで使われていた曲なんです!政変によって廃止されたり復活されたりと、その国の指導者の思想はもちろんですが、前為政者を否定する意味でも使われるのです。カダフィがクーデター後それまで使っていた国歌を否定したように、現政権もカダフィの行いを否定するためその前の国歌を採用したと考えられます。

CASEⅡ 不安定な国内情勢によって・・・アフガニスタン国歌

アフガニスタンは国歌変更がとても多い国です。王政時代の1926年に国歌が制定されるが1943年から始まった国歌変更は2006年現在の国歌になるまでの変更回数なんと8回!

詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

王政、クーデターや社会体制の変更、過激派による支配など国の情勢によって国歌はその都度、形を変えてきました。それはアフガニスタンという国のアイデンティティの未発達・・・というより欧米諸国による強引な国境線引きの醜さを体現しています。多民族国家アフガニスタンの現在の国歌は処々の民族に配慮し、12にも及ぶ民族名を歌詞に登場させています。そこからもいかに統治が困難であるかがうかがえます。

CASEⅢ 国民が歌えないので・・・スイス国歌

ヨーロッパ諸国でも国歌の変更は行われています。このスイス国歌の変更の理由は

「国民に人気がない」「歌えない人が多い」

冒頭、朝日の話が大半を占めている所から“天気予報国歌”と揶揄され人気がありません。そのため国民の中には歌えない人が少なくないのです。またサッカーの試合前や金メダルを獲得した際の国歌斉唱時、自国国歌を歌えない人が多いのは恥ずかしいということも大きな要因でした。

 

現行スイス国歌には宗教色が強いという批判もあります。筆者も以前旅先で出会った20代のスイス人男性に国歌を歌ってほしいとお願いした所、後半の歌詞を忘れしまい途中までしか歌えないと言われたことがありました。そこで2015年国歌を変更しようと訴える組織が発足し、新国歌候補を決めるインターネット投票を行いました。結果選ばれたものはメロディはそのままで歌詞が全面改訂された歌。

スイス新国歌(予定)はこちら!

 

まだ議会に国民投票と国歌変更のプロセスがありますが、国歌は変更されそうな情勢です。

CASEⅣ 時代に合わせて・・・カナダ国歌

カナダ国歌は国内外で人気のある曲ですがこちらも変更されるかの瀬戸際にあります。変更の理由は“sons(息子たち)”という文言。

女性が51パーセントを占めるカナダで、息子という表現は適切でないという意見により変更の議論が以前からありました。そして今年6月フェミニストを自称するトルドー首相の指示の元、下院での歌詞変更が可決。「汝の息子(in all thy sons command)」の部分を「我らすべて(in all of us command)」と変更するという内容です。

これは世界的な男女平等という風潮が国歌に現れた結果でしょう。現在の女性の社会進出が進んでいる現状況を考えれば当然の動きですね。しかし問題もあります。通常、下院を通過した法案は上院も問題なく通過するのですが、保守的な議員が反対し現在でも上院からの可決が下っていません。

↑2018年2月変更案が上院を通過しました。

 

国歌は国やその時代の情勢を映す

いかがでしたか?国歌はその国の歴史や文化だけでなく、現在の情勢を伝えてくれます。また、カナダ国歌のように時代の時勢をも読み取ることができるのです。

国歌ってステキでしょ?