【シリーズ】リオ五輪を振り返る 国歌で ~③オリンピックで初めて流れる国歌~

金メダリストに許される特権

日本代表選手が大きな口を開け歌っているのが印象的だったメダル授与式。金メダルを取った事が無い筆者だが、日々の厳しい練習に耐えた結果が優勝という形になった時の喜びはとてつもないものだという想像に易い。そこで歌う国歌もまた同じ。特に自分の演技によって初めて祖国の国歌をオリンピックの舞台で流したとなれば、喜びは格別だろう。

オリンピック表彰式で初めて流れたフィジー国歌「フィジーに神の祝福あれ」

建国から初めて今回金メダルを獲得した国の一つにフィジーがある。

大国を破り男子七人制ラグビーで金メダルを獲得した。300以上の島々からなる国土は小さい諸島国家だが、ラグビーでは強豪国として知られていた。この喜びはフィジー全土に大きな影響を与えている。バイニマラマ首相は国旗のデザイン変更に向け動いていたが、メダリスト達の帰国の際国旗が無いのは良くないという事でデザイン変更の動きを停止。さらに祝日を設定すると公言するほどの盛り上がり。

一方、選手たち。メダル授与式で彼らが表彰台に上がり国歌を歌う姿は誇らしげだった。胸のあたりで手のひらを空に向け、天を仰ぎながら歌う選手も。そんな彼らが歌ったフィジー国歌から同国が抱える問題を読み解く。

国歌を堂々と歌う選手たち

国歌を堂々と歌う選手たち

国歌から見える民族対立

注目したのは、どの言語で歌われるのかという事だった。フィジー国歌は英語とフィジー語、ヒンディー語と3通りがある(どれが公式の物なのか現在確認中)。今回歌われたのは英語バージョン。ここからフィジーが抱える問題が見えてくる。イギリスの植民地(現在は英連邦に所属)だったフィジーには、同じく植民地だったインドから多くのインド人労働者が連れてこられていた。その子孫が定着しインド系フィジー人としてコミュニティを作っている。現在はもともと島にいたフィジー系とインド系が人口を二分しており、それが問題になる事がある。フィジー系への優遇政策を行った時代があったり民族間の対立が激化。政治的混乱を招いた。しかし現在は政府による民族間の融和背策もあり、互いの民族のわだかまりは薄れつつあるが、結婚や選挙と言う事になると対立が可視化する。言語も日常生活ではそれぞれの民族の言葉を使っていることが多い。

そこで登場するのが英語だ。皮肉な話だが、旧宗主国の言葉が国の安定した統一に貢献しているのが現状。英語は普段の生活ではほとんど使われることが無いが、公用語として公式文章などで使用される。国歌もそうだ。今回の様な国全体で盛り上がろうという時に英語版が大いに役に立つ。フィジー系、ヒンディー系、互いに抵抗の無い英語版国歌は試合を見ていた国民たちも堂々と歌ったようで、ネット上ではいくつか試合前後で熱狂的に国歌を歌う様子の動画がアップされている。

国歌から分かる民族問題

場所が変わってスリランカでは大きく分けて2つの民族があるが、大多数を占める民族の言語で国歌が歌われる。これは一方の民族を優遇していることの象徴でもある。しかし先日、スリランカの独立記念日で少数民族の言語で国歌が歌われ話題になった。まだ正式な国歌として認められてはいないにしろ公式の場で歌われた事は大きな進展だ。

事件の詳細はこちら『国歌は平和を呼ぶ!! スリランカ タミル語国歌解禁』

スリランカのように片方を歌わない国があれば、フィジーのように両方歌わず第三の言語で歌う事で統一を図る国がある。

国歌を聞いて、『現地の言葉じゃない』 『歌っていない(歌詞が無い)』 というのがあったら調べてみてほしい。

国歌はその国の現状を教えてくれる。

スリランカ国歌の詳細はこちら『スリランカ民主社会主義共和国 国歌「母なるスリランカ」』