国歌を通して見る東京オリンピック2020 【後編】
国歌で東京オリンピックを振り返る 後編です！
大会中のロシア国歌演奏を禁止
東京オリンピック最大の特徴は無観客だったことでしょう。加えて、金メダル常連国ロシアの国歌『ロシア連邦国歌』の演奏が禁止されたことも他大会と大きく異なる点でした。
この国歌演奏禁止処置はロシアによる国絡みのドーピング疑惑への制裁によるものです。ことの始まりは2014年12月ドイツのテレビ局がロシア陸連の組織的なドーピング疑惑を行っているという報道。これを機に世界反ドーピング機関（WADA）が調査を行った結果、疑惑は事実と報告され、リオデジャネイロ五輪を含む国際大会の出場を禁止するという処置が取られました。しかし、改善が見られず提出した資料は改ざんがあり・・・。
2019年12月9日、WADAは2022年12月までロシア選手の国際的な主要大会での参加資格停止という厳しい処置が取られることに。しかし、ドーピングをしていないことが証明された個人参加は認められています。個人参加のため、国旗はその選手が所属するもの（オリンピックなら、ロシア・オリンピック委員会旗）、国歌はロシア色の弱いものが求められました。
2021年2月、東京オリンピック参加の国歌代替曲として、『カチューシャ』を提案。
この曲は第2次世界大戦時に人気となった愛国歌。しかし同年3月、スポーツ仲裁裁判所（CAS）はこの提案を「ロシア国歌（あるいはロシアに関連したあらゆる賛歌）」の使用は禁止するとした基準を引き合いに却下しました。
そこで新たに提案されたのが、チャイコフスキーが作曲した『ピアノ協奏曲第1番』でした。この提案は4月に承認され、東京と北京において同曲が流されることになりました。
実際、東京オリンピックでは、この曲が流されました。この処置での一番の被害者はドーピングを行っていない選手たち。表彰式でピアノ協奏曲が流れる中、首を横に振る選手もいれば、水泳で2つの金メダルを獲得したエフゲニー・リロフは、帰国後のインタビューで表彰式でピアノ協奏曲が流れる中、密かに国歌を歌ったことを公表しています。
そこで、ロシアでは粋な演出が行われました。大会終了後の8月9日、帰国した選手たちを迎える式典が赤の広場で開催され、選手たちが壇上に立つ中、ロシア国歌『ロシア連邦国歌』が流されたのです。しかも生演奏生合唱をフルバージョンで！
このようなイベントは様々な場所で開催され、メダルの授与式を改めて行うところもありました。表彰台で聞くことが出来なかった選手たちは感動したに違いありません。
一度の表彰式で2カ国の国歌が流れる珍事
8月1日に行われた陸上男子走り高跳びでのこと。首位に並んだムタズエサ・バルシム選手（カタール）とジャンマルコ・タンベリ選手（イタリア）の2選手は2.39mで3回とも失敗。ルールではジャンプオフという一方が失敗するまで全ての高さを飛ばなければいけないという延長線が存在します。運営側は2人にジャンプオフを行うか尋ねると、カタールのムタズエサ・バルシム選手が「2人とも金メダルがもらえる？」と運営側に訪ねます。運営側は「可能です」と答え、同率一位で金メダルをシェアすることに！
この同率一位は、ジャンプオフが過酷すぎるという理由で近年導入された制度でした。この様子は字幕付きでNHKが公開しています。NHKは他サイトで動画を見れないようにしているため下記URLをクリックして御覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=Vm_eEVz_AkE
翌日の表彰式では仲良く表彰台の真ん中に立ち、カタール国歌、イタリア国歌の順で国歌が流れました。2国の国歌が順に流れる、しかもこの組み合わせで！日本では二度とないことでしょう。陸上競技で金メダルがシェアされたのは1912年のストックホルム大会以来。ちなみにこの大会はアジアの国で初めて日本がオリンピックに参加した大会でもありました。
東京オリンピックで重大事件は起こらなかったけれど・・・
オリンピックで国歌が流れるのは、開会式、閉会式、一部団体スポーツの試合開始前、そして表彰式です。過去の大会では、国歌をかけ間違えたり、演奏中に選手が舌を出すなど態度が問題視されたりしていました。しかし今回は現場というより、表彰式で国歌が流れたことによって発生した事件が多かったのが特徴だったと言えます。それにしても、日本ではなかなか聞くことのない国歌が流れ良い大会でした！
本当はテレビではなく、生で聞きたかった！！
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