アジア最速は日本国歌 国歌誕生の歩みは人類の歩み
国歌の成り立ちは世界の流れに大きく関係している。国歌の輪プロジェクトは、194カ国の国歌成立年度を時系列順に並べた。今回はその結果を報告する。現存する国歌を対象とし、過去存在した曲は除く。なお成立年度は国家が国歌を正式に制定した年ではなく、国歌の形が整い人々が国歌として認識し始めた年を成立年度とした。
国歌の始まり 古参国歌は南米に多い!?
最も古い国歌として良く紹介されるのはイギリス国歌だ。国歌という概念が固まってきたのは19世紀。当初イギリスから広まったメロディは多くの国で使われ、アメリカやロシア、(デンマークは確認取れず)などヨーロッパで多く使われ、今でもリヒテンシュタイン公国で同じメロディが使われている。しかし実はイギリスには正式な国歌は存在しない。
スペイン国歌も1770年に演奏されたという記録があるが”国歌”としてではない。
イギリスやスペインを除くとフランス国歌『ラ・マルセイエーズ』が世界最古の国歌なのかもしれない。初演は1792年、制定されたのは1795年と18世紀には国歌が誕生していた事になる。面白かったのは次に古い国歌だ。当初欧州のどこかと予想していたが実際の所は南米のアルゼンチンだった(1813年)。さらにブラジル、ボリビアと南米諸国が続く。欧州諸国は誕生が早かったものの革命で曲が変わっている物が多いようだ。
もう1つ、ノルウェー(デンマーク、スウェーデン、フィンランドは国歌として法的に制定されたものは無い)と北欧勢も19世紀に使っていた国歌を現在も使っているのも興味深い。
アジア最速で独自国歌を手に入れた日本
地域で見ると、日本がいち早くアジアで国歌という概念を取りいれた国だと分かる。欧州から始まり、その植民地だった南米に。そして近代文明の取り込みに躍起になっていた日本が国歌を1880年に初演を遂げる。
驚いたのが中東の古参国歌。もっとも古くからある現存国歌がレバノンであった点だ。1927年のフランス委任統治領時代に作られた国歌だが、ご存知の通り同国は国内情勢が安定せずにいた。もしかしたら、国歌を決める溶融が無いというのが要因だったかもしれないし、モザイク国家と呼ばれるレバノンにとって内戦でバラバラになりかけた人々のアイデンティティをまとめる上でまとまっていた時代からあった国歌というのは大事なものだったのかもしれない。
国歌の変遷は人類の歩みを示す
20世紀、国歌誕生の歴史には多数誕生した大きな波が3つある。最も大きな波は1960年代で38の国歌が誕生しそのほとんどがアフリカ諸国。中でも多いのはアフリカの年と呼ばれる1960年で、この年に誕生した国歌は全てアフリカ諸国だ。続いて70年代、この年は「英国病」と呼ばれるイギリスの不況時代でソロモン諸島やツバル、コモロ連合、グレナダなどが英連邦の一員として次々と独立していった。そして3つめが1990年代の27。ソ連解体により欧州、中央アジアの国々の独立が大きい。想定してはいたものの世界の動きが国歌誕生にも大きく影響していることが改めて確認が出来た。特にイギリスの衰退は植民地政策の終焉であり人類の歴史を変えた出来事といえる。また40年代は16の国歌の内9つがアジアで、その内6つが45年以降の誕生だ。日本がアジアから手を引き独立していったことが要因だろう。
このように国歌の誕生はその地域に住んでいる人々のアイデンティティの誕生でもある。そういった意味でも国歌の変遷をなぞるのは興味深い。