スイス連邦国歌「スイス賛歌」

スイス連邦 国歌「スイス賛歌」

タイトル

Schweizerpsalm確認中)/ スイス賛歌

憲法や法律で国歌を定めるものを確認できなかった。政府ポータルでは「スイス賛歌として知られる・・・」という書き方をしており、他ページでは「Schweizer Landeshymne (Schweizerpsalm)」と表記していることから、正式には『スイス国歌』というのが正しいのかもしれない。
ただ、チューリッヒ州が制作したスイスへの帰化手続きで使われる同国の基礎知識テストで国歌を問う項目があり、そこでは正解を『Schweizerpsalm』としている。そのため、法的根拠はないものの行政としてもタイトルを『スイス賛歌』としていると当サイトでは判断し紹介する。

上記はドイツ語表記。その他に公用語として認められている3言語で表記される。
フランス語:Cantique Suisse
イタリア語:Salmo svizzero
ロマンシュ語:Psalmsvizzer

歌詞の冒頭部分『Trittst im Morgenrot daher』をタイトルとして使っていた時期もあるようだ。

作詞

Leonhard Widmer /レオンハルト ヴィトマー

1808年6月12日チューリッヒ州マイレン市にあるフェルトマイレンの農家で生まれた。学校卒業後、チューリッヒのリンダーマルクトにある絹製品工場で1823年から1827年まで商業見習いとして働く。その後、絹会社で短期間働いた後、1834年から1839年まで石版画家として働いた。1839年、地元のリベラル雑誌「DasNeumünster-Blatt」の編集者になり当時の政治対立を厳しく追求している。また、リトグラフショップの経営を始め、楽譜の出版を通じて成功を収める。そこの顧客に国歌を作曲したアルベルヒ ツヴィシクもいた。1867年逝去。

各言語の翻訳者は下記の通り。
フランス語:Charles Chatelanat
イタリア語:Camillo Valsangiacomo
ロマンシュ語:Flurin Camathias

作曲

Alberich Zwyssig /アルベルヒ ツヴィシク

1808年11月17日、ウーリ州バウエン生まれの司祭、作曲家。13歳でヴェッティンゲンの修道院学校に入学。1832年に司祭に叙階されると同時に教会音楽の監督にも任命される。た1841年、ヴェッティンゲン修道院の廃止に伴い追放され、ツークに滞在。分離同盟戦争後もルツェルンのヴェルテンシュタイン修道院で同じことを再び羽目に合う。1854年逝去。

採用年

1961年9月12日(暫定)
1981年4月11日(公式)

成り立ち

最初のスイス国歌は、英国国歌神よ女王を護り賜えのメロディに合わせ、1811年に哲学者のヨハン・ワイス(1782-1830)が作詞した歌詞をのせて歌われた『Rufst du、mein Vaterland(祖国が呼ぶ時)』で、1950年代終わりまで国歌として歌われた。しかし、外交が活発になりスイスと英国の国歌が同時に演奏される機会が増えると、区別がつかないという問題が起こり、国内で国歌変更の議論が盛り上がる。変更が決定的になったのはオリンピックなどのスポーツの国際試合で、優勝者がスイスか英国か分からないという問題だった。
新しい国歌候補として上がったのが『スイス賛歌』と呼ばれる現在のスイス国歌。実はこの曲、1841年初演というもので国歌のために作られたものではなかった。元々は1835年にツヴィシクがヴェッティンゲン修道院の音楽監督を務めていた時に、詩篇「Diligam te Domine(主よ、あなたを愛します)」を元に作曲した賛美歌だった。1841年夏、レオンハルト ヴィトマーが友人であったツヴィッシヒに歌詞に手紙を添え作曲を依頼したところから始まる。その手紙を受け、先程の賛美歌を歌詞に合わせ作り直したのが『スイス賛歌』だった。同年11月22日の初リハーサルが行われている。
1843年、この歌はチューリッヒがスイス連邦に統合されることを記念するパンフレットに掲載されお披露目された。
同年、チューリヒで開催された全国歌謡祭で、4番まであるこの歌が披露されると観客から高い評価を得て、全国的に広まり愛国的な祝賀会で頻繁に歌われることになる。全国的に歌われたのは、多言語に翻訳されたことも理由の一つで、ドイツ語で書かれた歌詞が、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語に翻訳された。この歌を公式国歌にすべきという要請が連邦議会にあったものの、国民の同意がまだ十分に得られていないと議会が判断。この時は国歌になることはなかった。その後、何度も連邦議会で国歌制定の動きがあったが毎度頓挫することとなる。また、1919年、1935年にはスイス歌手協会主催で国歌案を決めるコンクールが行われている。35年のコンクールでは1819の歌詞と581の作曲が提出されたが、審査員が納得するものはなかった。
1961年9月12日、連邦議会は軍事および外交の機会に演奏される国歌として『スイス賛歌』を暫定的に3年間採用することを決定する。
暫定期間終了後、各州に今後も『スイス賛歌』を継続して使用するか否かの決議が行われた。結果、12州が『スイス賛歌』を国歌として使用を継続することに賛成し、7州が使用期間の延期、6州が拒否した。このように賛否があったものの『スイス賛歌』は国歌として暫定的に無期限承認された。しかしこの暫定決定は連邦議会により10年後に放棄されてしまう。
1979年、仮で定められている国歌ではなく正式な国歌がほしいという機運が高まり、それにふさわしい国歌を決めるコンテストが行われた。多くのエントリー曲が寄せられたが、良い作品は見つからなかった。
正式に『スイス賛歌』が国歌となったのは1981年4月1日の連邦議会の決定により、スイスの賛歌は公式に連邦の国歌として宣言された。
しかし、現在も法的根拠はなく連邦議会では度々国歌の法制化が議論されている。

EXCELSIOR

憲法での言及はない。

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法律はない。そのため何度も国歌に法的根拠をもたせようと議論が行われたがいずれも否決されている。否決理由として「法的に定めることなく、都度国民が議論し国歌を決めるべき」という考えがあるようだ。

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2009年、連邦議会の会期開始時に国歌を流すが、斉唱するか否かはそれぞれの議員の意思に任せるという動議が可決された。

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2000年にスイスのドイツ語圏とフランス語圏で行った調査では、スイス国歌を4番まで全て歌えるという人はわずか3%。1番を歌える人も3分の1に満たなかった。
同年に行われた別の調査、「Coop」誌がドイツ語圏とフランス語圏で行った結果、歌詞を見ないで歌える人は事実上ゼロ。特に、15才から29才までで覚えているのは1%。
筆者も旅先で出会ったスイス人に国歌を歌って欲しいとお願いしたが「覚えていない」と断られたことがある。

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アルベルヒ・ツヴィシクの手書き楽譜は、スイス国立図書館に保存されている。

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現国歌に対する批判は少なくない。「19世紀の色が強すぎる」「女性を無視している」などの意見がある。
揶揄もあり、“日没” “星” “朝焼け”という言葉が入っていることから「天気予報」というのもあれば、ドイツ語では、最初に出てくる単語「朝焼け」モルゲンロート(Morgenrot)とモーニングガウンのドイツ語モルゲンロック(Morgenrock)の発音が酷似していることから「スイスという女神がモーニングガウンを着て現れた」と揶揄する人もいる。
2004年、歌詞変更の法案が出されたが2006年に否決された。

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スイスの代表的作家ゴットフリート・ケラーの「ああ、わが祖国」のテキストやヴィリヘルム・バウムガルトナーの「聖なるスイスの国よ」、ヘルマン・ズーターの「祖国よ、気高く美しい」などの詩を国歌の歌詞として使うといった提案があった。
1986年にはチューリヒ州出身のフリッツ・マイヤー下院議員が、フランス語圏の国民を尊重しアンリ=フレデリック・アミエルの詩「太鼓をたたけ」にしたらどうかと提案したこともあった。しかし、いずれの提案も盛り上がらなかった。
既存の詩を利用するのではなく、新しい歌詞と曲を作るという動きもあった。シラーの演劇「ウイリアム・テル」から、リュトリの草原での3州団結の誓いのシーンを歌にしたもの(ハプスブルク家に対抗するために結んだ同盟でスイス連邦の始まりとされる)や、スイス民謡という提案もあった。
1998年には新国歌作成の基金まで作られた。しかし募集開始の翌年基金が破産し、新しい国歌の導入計画は頓挫している。

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2013年8月、非営利団体スイス公共福祉協会が、新しい国歌を見つけるためのコンテストを行うと発表し大きな話題となった。作品の応募要件は3つ。
1.歌詞が国の言語のどれか一つであること、
2.歌詞の内容に連邦憲法前文の価値観が反映されていること
3.現在の国歌のメロディーが感じられるものであること
2014年1月1日から6月30日の間に206件の応募があった。内訳はドイツ語が120件、フランス語が69件、ロマンシュ語が10件、イタリア語が7件。応募曲は4つの言語地域から選ばれた30人の審査員によって評価され、第一次審査で選ばれた6曲の歌詞は、他の言語に訳された。
2015年9月に開催された音楽祭で最終選考で選ばれた3作品が披露された。観客とテレビを観ている視聴者の投票によってチューリッヒ生まれのWerner Widmerの作品「Schweizerstrophe」が選ばれた。優勝賞金は1万フラン(日本円でおよそ100万円)。新しいスイス国歌としての承認を得るために連邦議会に歌を提出している。
2016年8月1日には公式の国歌に加えて、非公式の国歌も連邦大統領の前で歌われた。

スイス国歌変更!? 結果発表!  意外な結果に主催団体代表者は大歓迎。その理由は??
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『スイス賛歌』を制作した2人に関連した複数の記念碑や噴水がある。

歌詞

(ドイツ語)

【1】

Trittst im Morgenrot daher,

Seh’ich dich im Strahlenmeer,

Dich, du Hocherhabener, Herrlicher!

Wenn der Alpenfirn sich rötet,

Betet, freie Schweizer, betet!

Eure fromme Seele ahnt

Eure fromme Seele ahnt

Gott im hehren Vaterland,

Gott, den Herrn, im hehren Vaterland.

【2】

Kommst im Abendglühn daher,

Find’ich dich im Sternenheer,

Dich, du Menschenfreundlicher, Liebender!

In des Himmels lichten Räumen

Kann ich froh und selig träumen!

Denn die fromme Seele ahnt

Denn die fromme Seele ahnt

Gott im hehren Vaterland,

Gott, den Herrn, im hehren Vaterland.

【3】

Ziehst im Nebelflor daher,

Such’ich dich im Wolkenmeer,

Dich, du Unergründlicher, Ewiger!

Aus dem grauen Luftgebilde

Tritt die Sonne klar und milde,

Und die fromme Seele ahnt

Und die fromme Seele ahnt

Gott im hehren Vaterland,

Gott, den Herrn, im hehren Vaterland.

【4】

Fährst im wilden Sturm daher,

Bist du selbst uns Hort und Wehr,

Du, allmächtig Waltender, Rettender!

In Gewitternacht und Grauen

Lasst uns kindlich ihm vertrauen!

Ja, die fromme Seele ahnt,

Ja, die fromme Seele ahnt,

Gott im hehren Vaterland,

Gott, den Herrn, im hehren Vaterland.

歌詞 日本語訳

 

歌詞 カタカナ読み

【1】(ドイツ語)

トゥリスト イム モルゲンロット ダーヘル

ズィーヒ ディッチ イム シュトラーンミル

ディーヒ ドゥ ホーヒェルハーベネル ヘルリヒェル

ベン デル アルペン フィーリン ズィッヒシュ レーテトゥ

ビッテトゥフライエ シュヴァイゼル ビッテトゥ

オイレ フローメ シーレ アントゥ

オイレ フローメ シーレ アントゥ

ゴートゥ イム ヒーレン ヴァーテルランド

ゴートゥ デン ヘルリン イム ヒーレン ヴァーテルランド

国歌に関するリンク

【政府ポータル “National anthem”】
https://www.eda.admin.ch/aboutswitzerland/en/home/gesellschaft/traditionen/nationalhymne.html

【政府ポータル 連邦議会 “Schweizer Landeshymne”】
https://www.admin.ch/gov/de/start/bundesrat/geschichte-des-bundesrats/schweizer-landeshymne.html

【政府ポータル 連邦議会“How a church hymn became a national anthem”】
https://web.archive.org/web/20101205203303/http://www.admin.ch/org/polit/00055/00064/index.html?lang=en&unterseite=yes

【政府ポータル 国立図書館 “Schweizer Landeshymne”】
https://www.nb.admin.ch/snl/en/home/publications-research/dossiers/-when-the-morning-skies-grow-red——the-long-road-to-switzerla.html#-1146613326

【政府ポータル 連邦防衛・ 国民 保護・スポーツ省 “50 Jahre Schweizerpsalm”】
https://www.admin.ch/gov/de/start/dokumentation/medienmitteilungen.msg-id-42204.html

【連邦議会 “Ständerat Herbstsession 2018 Zehnte Sitzung 26.09.18 08h45 17.478”】
https://www.parlament.ch/de/ratsbetrieb/amtliches-bulletin/amtliches-bulletin-die-verhandlungen?SubjectId=44382

【swissinfo.ch “国歌の微調整を国民に呼びかける”】
https://www.swissinfo.ch/jpn/%E6%84%9B%E5%9B%BD%E4%B8%BB%E7%BE%A9-_%E5%9B%BD%E6%AD%8C%E3%81%AE%E5%BE%AE%E8%AA%BF%E6%95%B4%E3%82%92%E5%9B%BD%E6%B0%91%E3%81%AB%E5%91%BC%E3%81%B3%E3%81%8B%E3%81%91%E3%82%8B/37626164?utm_campaign=teaser-in-channel&utm_content=o&utm_medium=display&utm_source=swissinfoch

【swissinfo.ch “聞いてみようスイス国歌”】
https://www.swissinfo.ch/jpn/%E8%81%B4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%81%BF%E3%82%88%E3%81%86%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E5%9B%BD%E6%AD%8C/2849052?utm_campaign=teaser-in-channel&utm_source=swissinfoch&utm_content=o&utm_medium=display

【swissinfo.ch “8月1日はスイス建国記念日:聴いてみようスイス国歌”】
https://www.swissinfo.ch/jpn/8%E6%9C%88%EF%BC%91%E6%97%A5%E3%81%AF%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E5%BB%BA%E5%9B%BD%E8%A8%98%E5%BF%B5%E6%97%A5-%E8%81%B4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%81%BF%E3%82%88%E3%81%86%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E5%9B%BD%E6%AD%8C/2165642?utm_campaign=teaser-in-channel&utm_source=swissinfoch&utm_content=o&utm_medium=display

【swissinfo.ch “新スイス国歌 候補曲6曲の投票開始”】
https://www.swissinfo.ch/jpn/%E5%9B%BD%E6%B0%91%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%9B%BD%E6%B0%91%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E5%9B%BD%E6%AD%8C_%E6%96%B0%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E5%9B%BD%E6%AD%8C-%E5%80%99%E8%A3%9C%E6%9B%B2%EF%BC%96%E6%9B%B2%E3%81%AE%E6%8A%95%E7%A5%A8%E9%96%8B%E5%A7%8B/41369712?utm_campaign=teaser-in-channel&utm_content=o&utm_medium=display&utm_source=swissinfoch

【swissinfo.ch “感動と失笑の狭間で”】
https://www.swissinfo.ch/jpn/%E6%84%9F%E5%8B%95%E3%81%A8%E5%A4%B1%E7%AC%91%E3%81%AE%E7%8B%AD%E9%96%93%E3%81%A7/4634400?utm_campaign=teaser-in-channel&utm_source=swissinfoch&utm_content=o&utm_medium=display

【swissinfo.ch “国歌が奏でる不協和音”】
https://www.swissinfo.ch/jpn/%E5%9B%BD%E6%AD%8C%E3%81%8C%E5%A5%8F%E3%81%A7%E3%82%8B%E4%B8%8D%E5%8D%94%E5%92%8C%E9%9F%B3/30795806?utm_campaign=teaser-in-channel&utm_source=swissinfoch&utm_content=o&utm_medium=display

【swissinfo.ch “The Swiss National Anthem”】
https://www.swissinfo.ch/eng/the-swiss-national-anthem/110604

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