宗教を主張する国歌たち

文化を表すのが国歌であるならば、文化を形成する重要な要素である宗教を表現するのも国歌です。今回は宗教色のある国歌たちを紹介します。

全てはご紹介できませんが代表的な歌を挙げました。

 

「アッラー」と叫びたい! イスラム教系国歌

ブルネイ・ダルサラーム国国歌『国王に神のご加護を』は「陛下に神の御加護を」で始まります。「アッラー」というイスラム教の神の名を出すのが大きな特徴(正確には神の名と言うより神そのものを指します)。ということは同国の国教はもちろんイスラム教。神に君主の繁栄をお願いするという構図はイスラム教に限らず、キリスト教徒の多いイギリス国歌『女王陛下万歳』や仏教が国教のカンボジア国歌『王国』と同じです。アフガニスタン、アラブ首長国連邦、クェート、ブルネイ、旧リビアの国歌など「アッラー」の名を出す国は多く見られます。特に旧リビアの国歌『アッラーは偉大なり』は「アッラー」を連呼するイスラム教系国歌の代表曲。アラブ諸国統一を目指したカダフィ大佐のイスラム愛を強く感じる作品です。

気になるのは中東の盟主と呼ばれイスラム教の聖地メッカをもつサウジアラビア。期待を裏切らず国歌『サウジアラビアの国歌』の歌詞はイスラム色全開です。

「重ねて言わん アッラーは偉大なりと」

「イスラム教徒の誉れたれ」

国教をイスラム教とする国が多い事もあって国歌で最も出てくる宗教はイスラム教でしょう。

 

 

聖書の内容をハッキリ表現 キリスト教系国歌

「God」という単語は多くの国で使うものの、はっきりキリスト教を連想させる国歌は少ない。イスラム教の「アッラー」のように具体的な神の名がないというのが大きな要因でもあります。

ルーマニア国歌『目覚めよ、ルーマニア人!』の11番では「十字架を持つ司祭を先頭に兵はみなキリスト教徒」と歌われます。ルーマニアに国教はありませんが81%がルーマニア正教徒である点や、1977年の独立まで支配していたオスマン帝国からの独立機運が高まった時期に作られた歌詞(詩)のため、兵士とキリスト教徒が結びついた内容になったと考えられます。

「全人類が十字架上に死なれた主の言葉を理解する」

と歌われるコロンビアも国教がキリスト教ではないものの人口95%以上がキリスト教徒です。

珍しい単語が出てくるのはメキシコ国歌『メキシコの国歌』

「汝の頭を大天使がオリーブの枝持て飾らん」

オリーブは平和の象徴として映画や小説によく使われますが、これは『旧約聖書』のノアの箱舟のくだりからきています。言うまでもなく、同国の90%以上がキリスト教徒です。

もちろん、ヴァチカン市国はキリスト色全開。

タイトルは『賛歌と教皇の行進曲』。歌詞も「ペトロの座」「人を漁る漁師」「群れを守る羊飼い」「御身はキリストの地上の代理」と聖書を思わせる文言が並びます。

世界第4位の信仰者数を抱えつつも意外と少ない 仏教系国歌

世界三大宗教(日本でしか聞いたことのないですがw)と言えばキリスト教、イスラム教、そして仏教です。数は少ないですが仏教を表現した国歌があります。

ブータン王国国歌『雷龍の王国』の面白い点は現実とずれた事を歌っている点でしょう。

ひとつは国政について。

歌詞の中では「誉れ高き統治者は・・・」とあり君主制のように歌っていますが実際は二院制の議会がある立憲君主制です。

2つ目は今回のメインテーマである宗教。

「ブッダの教え栄えるごとく」と国教は仏教だけのよう。しかしブータン王国名誉領事館のウェブサイトによると国教はチベット仏教だけでなくヒンドゥー教も入るようです。ここからブータンが抱える問題を教えてくれます。

日本では幸福指数が高いと紹介されることが多いブータンですが、その陰には「ブータン難民」というネパール系住民や南部の民族への迫害問題が存在します。彼らの多くが信仰しているのものがヒンドゥー教なのですが、国歌内では歌われません。小さなことかもしれませんが、こういった些細な事の裏に隠れた問題が存在すると認知することは非常に重要です。

一方で、この国歌が自国の文化を表すメロディを奏でる点、同国の伝説を入れ込みブータンらしさを見せる秀逸な物であることは間違いありません。

 

 

これぞ国歌色全開! ユダヤ教系国歌

“ユダヤ系”と書いたものの、ユダヤ教色のある国歌はイスラエル国歌『希望』一つだけです。イスラエルはユダヤ人がユダヤ人のために作った国と言えます。そんな国の国歌ですから歌詞はユダヤ教色が強く“ユダヤ教徒”“シオンの地”“シオン”“エルサレム”と単語が並びます。建国するにあたりヘブライ語を復活させるなど民族色に強いこだわりがある国ならではですね。

このユダヤにこだわりが強い部分が問題にもなっています。

1月30日、イスラエルで最高裁判所判事になった初めてのアラブ人Salim Joubran氏(70)が引退しました。彼はインタビューで現在のイスラエル国歌を歌う事は出来ないと述べています。その理由について

“ユダヤ人の魂を揺さぶる”という言葉を含む歌を歌うことができない」

ユダヤ人に言及している点で共存するアラブ人について歌われないことに疑問を呈しました。

「国歌の言葉をいつか変えれば、歌うのに問題はないと思う。国歌にどんな言葉を加えるべきかは言わないが、国家がアラブ人を含むすべての市民が国歌を尊重することを期待するならば、国家は国と国の権利を尊重する必要がある」とも述べています。

 

 

宗教の対立を乗り越えよう! 宗教融和系国歌

少なくとも、人類が記録を残すという事を覚えてから今に至るまで人類史上争いが途絶えた事はありません。残念ながら宗教間対立を理由に争う事もしばしば(それが宗教という皮をかぶった権力争いだったとしても)。

国歌の中にはそんな人類の長年のテーマである宗教対立を何とかしたいという想いを発信する国歌があります。

代表的なのはインド国歌『ジャナ・ガナ・マナ』でしょう。

アジアで初めてノーベル文学賞を受賞したタゴールがつづる歌詞は秀逸!

2番でヒンドゥー教や仏教など7つの宗教を羅列し団結を求めます。複数の宗教の名が出てくるのはこの歌だけでしょう。

さらに興味深いのは1番に出てくる“運命の支配者”という言葉。

“神”“アッラー”という特定の言葉を用いず“支配者”と書くことで多様な信者が国歌を受け入れられるようにという工夫がされています。多宗教が混在するインドだからこそ生まれた国歌と言えます。

もう1つうまく宗教をまとめている国歌を持つ国があります。西アフリカにあり、東、南、北をセネガルに囲まれたガンビアの国歌『わが祖国ガンビアのために』です。

「諸民族の偉大なる神よ」

という文言はうまく宗教問題をカバーしています。

どれだけ宗教問題を抱えて理うかと思って調べてみるとイスラム教90%、キリスト教・伝統宗教が10%と決して多宗教国家ではありません。しかも民族紛争も少ない。

なぜこんな国歌が誕生したのでしょうか?

正確な研究がされていないため推測の域を出ませんが、このような歌詞が書かれた背景に

“人々が自分の民族以外の言語を使い会話をする”

という日常が関係しているのではないかと思います。

ガンビアへ渡航経験のある人の話を聞くと、街中で複数の言語を聞く事ができるそうです。民族が違う人と話す際、公用語ではなく相手の言葉を使って話す事もあるのだとか。そういった他民族を尊重することで共生を保っている国だからこそ生まれた国歌なのかもしれません。