カナダ国歌が揺れている ~歌詞変更問題が見せた人種差別問題~

先月、国歌の歌詞が変更されることになったカナダ国歌。男女平等が叫ばれる昨今、時代遅れだと以前から議論になっていました。賛否あるものの、伝統が大事にされがちな国歌が時代の要請に合わせた事は画期的です。

詳しくはコチラ

そんなカナダで新たな歌詞に関する問題が報じられています。今月12日に行われたMLBオールスターゲームの冒頭で歌われたカナダ国歌。なんと歌手が勝手に歌詞を変えて歌ったとAFP通信が伝えています。問題の部分は4人組グループのカナディアン・テラーズのメンバーの1人、ペレイラのソロ部分。

”With glowing hearts we see thee rise. The True North strong and free.”

という歌詞を

”We’re all brothers and sisters. All lives matter to the great.”

と変更して歌いあげました。

問題になったのは”All live matter”という部分。先日アメリカで警官による黒人射殺事件が起こった事はご存知かと思います。警官に対する抗議デモでは” Black Lives Matter(黒人の命も大切)”というスローガンが使われました。それに対抗して使われたのが”All live matter(命は全て大切)”一見良い事を言っているようですが、” Black Lives Matter(黒人の命も大切)”に対抗して作られたことを考えると穏やかではありません。「黒人だけ特別扱いしてんじゃねーよ、過剰に反応しやがって」そんな意味合いが含まれています。それを国歌に使うなんて・・・

他のメンバーは歌詞を変えたことを知らず、ペレイラの独断で行ったそうです。彼らを正面から撮影した映像では、他のメンバーが何度もペレイラを見ていました。独断と言うのは本当だと思います。では、聞いていたカナダ人の反応はどうでしょうか?

観客側からか撮影した動画をいくつか見る限り、歌い終わりの歓声に比べると多くはありませんが問題の部分でも歓声が聞かれます。歌詞の変更に好感を持つ人も多くはありませんが、共感する人もいたようですね。しかしネット上では批判する声が多い。”国歌を変えるなんて” ”政治を持ち込むべきではない” などが見られます。大半のカナダ人は今回の事件に否定的な意見を持った人が多いのではと感じています。

国歌は国を象徴するものです。プライベートならまだしも公の場で今回の様な行為を行う事は間違っています。当初、この事件が起こったと聞いた時、ロック歌手なのかなと思いました。既存概念を破壊知るのはロックの一つの特徴ですから。しかし動画を見てびっくり。なんとゴスペルグループではありませんか!しかも歌い終わりがとてもかっこいい!!

もったいないです・・・アメリカで問題になっている黒人射殺事件は同国の人種問題の根深さを改めて感じさせるものでした。そして、人種問題に寛容と言われるカナダでもこのような事が起こったのは、カナダでも人種差別が少なからずあるという事を証明してしまっています。もちろん、ほとんどのカナダ人が留学生や移民に寛容であることを知っています。同国に留学した多くの友人から「カナダ人はとても優しかった」と聞きます。しかし一方で「差別を感じることがあった」という意見があることも事実。差別はどこの国でもあります。しかしそれを国歌で表現してしまった事は恥ずべき行為です。

それにしてもカナディアン・テラーズの歌声はとても素晴らしかった。カナダ国歌は同国の国土の美しさを歌うものです。次回、また彼らに歌う機会が与えられるなら、政治色のない美しいカナダ国歌を歌ってほしいと切に願っています。