ワリフ ハラビ シリア・アラブ共和国代理大使インタビュー 後篇

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今回のインタビューが決まってから悩んでいたのは「シリアの現状について尋ねるべきか」ということでした。今、検索サイトで“シリア”と打てば戦争についての記事が上位に出ます。同国を訪問したことがある筆者にとってそれは悲しい事です。そこで今回は読者の皆様が読み終わった後「平和になったらシリアに行きたい」と思って頂けたらという想いを持ち取材を行いました。シリアの現状を知ることはもちろん大事なことですが、この国が本来持つ魅力を知ることも同じくらい大事だと考えます。

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ワリフ ハラビ シリア・アラブ共和国大使館代理大使

シリア騒乱がもたらしたもの

―今年は独立から70年という節目ですよね?―

そうですね。残念ながら公式行事は一切行われていません。騒乱前は多くの日本人がシリアに訪れていました。ビザ申請が多くて大使館はとても混んでいたと領事部から聞いています。シリアと併せて周辺諸国を周る方もいて人気の国でした。しかし騒乱でパルミラなど多くの歴史的な遺産が破壊されてしまいました。

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パルミラ遺跡は保存状態の良い遺跡の一つだった

―遺跡は観光資源としても大事なものですが破壊されてしまいました―

しかし、遺跡は石で出来ているので破壊前の写真を参考に修復できるのではないかと言われています。バラバラにされたピースを組み直すということです。

―それは素晴らしい話ですね―

遺跡に関してはそうですが問題はそれだけではありません。遺跡の破壊が注目されていますが、実は博物館で保管されていた品々が混乱に乗じて盗まれてしまいました。安い価格で海外に売られていると言われています。シリアには貴重な品がたくさんあるんですね。最古のアルファベットや楽譜を作ったウガリット王朝誕生の地であることはご存知ですか?文明の基礎を作ったのはシリアと言っても過言ではないんです。だからこそ貴重な品々が多く残されているんですね。遺跡やそれに付随する品々を国民の努力で守ってきました。それが壊され、今までの努力が全て無駄になってしまっています。

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アルファベットの元となったといわれる文字(レプリカ)

シリア政府軍によるアレッポ奪還の持つ意味合い

―先日(12月12日)、北部の都市アレッポを政府軍が奪還しました―

とても良いニュースです。私のファミリーネームのハラビは、アラビア語でアレッポのことです。私の出生地はダマスカスですがハラビ家はアレッポの家柄なんですね。ですから両親はダマスカスに住んでいますが多くの親戚がアレッポに住んでいます。8人の兄弟がいて私は3番目とビックファミリーなんですよ(笑)幸い全員無事でいますが生活は大変です。

―アレッポという名は旅行中何度も聞きました。出会う旅人はみんな「いい所だ」と言っていたのが印象的です。

時間が無くて行かない私は多くの旅人に「なぜ行かないのか」と責められました―

それはもったいないことをしましたね。アレッポも観光地として人気の場所で1986年に世界遺産登録されています。町の中心部の小高い丘にあるアレッポ城はシリア、セレウコス、ローマ帝国、ピザンツ帝国などに要塞として使われてきました。面白いのは城内にモスクや、宮殿、劇場もあるんです。一説によればアレッポ城は中東で一番美しい城とも言われています。またスーク(商店街)は15キロあるんですが、世界一長い屋根付きの商店街としてギネスに登録されています。

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アレッポ城(大使館提供)

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ギネス登録されている旧市街のスーク(大使館提供)

―これらも破壊されてしまっているんですか?―

城は戦争目的で作られていますからテロリストもそういった所を使うんですね。文化的歴史的価値のある所を盾にして、政府軍が入ってきた時には仕掛け爆弾を爆破するんです。そうするとお城は壊れますし、政府軍の軍人も亡くなります。スークも迷路のように道が入り組んでいて戦闘に使われてしまいました。残念でなりません。

―アレッポを奪還したことは様々な点で意味合いが大きいと聞きました―

経済的、政治的に重要です。アレッポは日本でいう大阪のような存在と言えます。商業都市として多くの工場がある場所ですので経済的に重要な町なんですね。また、東はイラクが国境警備を強化していますが北部の国境は現在無法地帯です。北部にあるパイプラインから石油が抜き取られたり、商業都市であるアレッポの工場機器の多くが盗まれ販売されたりもしています。もちろん文化遺産の売買も行われています。これらはトルコに流れていると言われています。国境警備が甘ければテロリストも流入します。そういった北部の問題を解決するためにアレッポの奪還は重要なことですし、政治的にも周辺諸国に私たちの強い意志を発信する意味合いもありました。

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地図でアレッポの重要性を説明する大使

シリアは“内戦状態”ではなく“騒乱状態”

―大手マスコミはシリアの現状を“内戦”と報じています―

内戦という言葉は間違いです。

この戦いはシリア人同士の争いではないんですね。他国から様々な力が働いて今の惨劇が続いているんです。テロリストのほとんどは海外から来ています。もちろん国内からも少数いますよ。それは貧乏だったりで、お金をもらったりしてついていくんです。そういったものを組織している幹部は全て国外からです。当然のことながら私たちはどんな過激派にも支援していませんし反対しています。これはとても大事なことなんですが西側諸国の情報だけでなく、誤解の無いよう私たちから直接情報を仕入れて欲しいんです。マスコミの一方的な報道が目立っていますし、ミスリーディングを感じます。例えば、今回のアメリカ大統領選挙では誰もトランプ氏が勝つとは思っていませんでした。でも結果はどうでしたか?これがいい例です。

決して対岸の火ではないシリア問題

―日本人に伝えたい事はありますか?―

私たちの国で起きている事は日本でも起こることかもしれないということです。テロには国境がありません。残念ながら、例えばバングラディッシュやインドネシアでもISISが活動するようになりました。それは私が最も恐れていた事です。目を閉じて見て見ぬふりをしていたら何も解決しません。これらの国は決して日本から遠い国ではありません。日本が将来テロの標的になるかもしれません。それに対しての心構えを持っておくべきだと思います。

“調和”の名を持つ大使

―大使が日頃心がけていることは?―

物事をポジティブに考えることです。人は何か起こるとネガティブな考えかポジティブな考えを持ちます。私は楽観主義になることが大事だと思います。どのような状況でも良い方向に物事を考えることが良い結果を導き出すんです。

―私もポジティブに考え、旅で出会ったシリアの方々に再会できると信じています―

本当にありがとう。そうなる日が早く来るよう私も祈っています。

―先程、大使のファミリーネームが“アレッポ”の意味だと聞きましたが、名前にも意味があるんですか?―

私の名前はシリアでも珍しい名前で、ワリフとは木と木の枝がお互いに重なりあって調和を作ることを言いまして、“愛”“調和”を意味しています。枝をくっつけるように人々をくっつけるという、そうですね・・・調和の雰囲気を作るということでしょうか。

―まさに今のお仕事は天職ですね!―

あははは、そうですね!全ての名前に意味があります。人は名前の意味から性格が入ると思うんです。今はもちろんですが帰国後も(両国の関係改善に※)最善を尽くします。なぜなら私は日本と日本人を愛しています。私は日本人を信じています。いい関係を取り戻したい。それは両国にとって大事なことです。

※2011年から日本はシリアへの経済制裁に参加している

―本日はお忙しい中時間を割いていただきありがとうございました―

海外情報の圧倒的な少なさ

最後までお読みいただきありがとうございました。シリアの現状を“内戦と書くことが果たして正しいのか考えさせられました。さらに言えば、疑いも無く“内戦”だと決めつけていることが問題なんだと思います。圧倒的に手に入る情報量が少ないと痛感したインタビューでした。どちらが正しいとは言えません。ただ疑う気持ちは持つべきですね。筆者が行った国の人達は自国の放送局はもちろん、CNNやアルジャジーラなど様々な国から発信される情報に触れていました。そして得た情報を使ってカフェや家で議論しているんです。日本はどうでしょうか?湾岸戦争やイラク侵攻などで我々は踊らされました。

そしてもうひとつ思ったこと・・・

またシリアに行きたい!!

アレッポやマアルーラなど話を聞いているとウズウズしてきます。以前の旅ではあまり歴史を考えずにただ遺跡の存在感や町並みの美しさに感動していました。しかし、今回シリアがアルファベットや楽譜の誕生の地であることや、イエスが使っていた言葉が残っている町があるなど歴史や文化の背景を知れば、あの時の旅をもっと楽しめたんじゃないかと後悔しています。そして、シリアで出会った人の連絡先をまとめた手帳を無くした際、一緒に長い時間探してくれた若者やシリア国歌を歌ってくれた子供、カシオン山にある自宅の屋上に呼んでくれてお茶を出してくれたおじさんたち・・・彼らに再び会えるよう昨年12月31日から発行された停戦が守られ、混乱が収まることを切に願います。

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先程紹介したアルファベットのレプリカを持って。「私も一緒に入りましょうか?」と本当に気さくで親切でサービス精神旺盛な大使でした

ワリフ ハラビ シリア・アラブ共和国臨時代理大使 略歴

ダマスカス生まれ。ダマスカス大学にて英文学で学士号、教育心理学で終了証を取得。イギリスのオックスフォード大学、アメリカのロングアイランド大学院で政治学を学ぶ。1991年に外務省入省。外務省本省、在ウィーンシリア大使館、国連シリア政府代表部などを経て2013年、駐日シリア・アラブ共和国代理大使に就任。母語のアラビア語や英語はもちろん、フランス語やドイツ語も使いこなすマルチリンガル。