領土を主張する国歌たち

国歌は国を表します。国にとって大事な物の一つに領土がありますね。国歌の中には領土を主張するものがあります。歌詞からその国が抱える領土問題や歴史が見えくることも。

セントクリストファー・ネービス国歌『おお美しき地』

セントクリストファー・ネービス(外務省表記)はカリブ海の小さな2つの島からなる国です。別名セントキッツ・アンド・ネイビスとも呼ばれます。2つある島の大きい方がセントクリストファー島で小さい方がネイビス島。国歌おお美しき地の歌詞からも、この2つの島で国が成り立っていることが分かります。

「セントキッツ・アンド・ネイビスは1つの国とならん 共通の運命で共に束ねられて」

しかしこの文言を入れているには理由がありそうです。実は、この2つの島は以前から分裂の議論があります。政治や経済の中心は首都があるセントクリストファー島なのですが、連邦国家なのでネイビス島には独自の自治政府と議会が設けられているのですが・・・

予算などの権限をセントクリストファー島側に握られているのでネイビス島には不満が貯まっています。例えば、1984年に財政難を理由に連邦政府がネイビス島への補助金を停止したことがありました。これにより同島は公務員への給与が払えなくなるという事態に。このように虐げられているネイビス島はイギリスの自治領時代から分離を望んでいました。

1977年には住民投票が行われ分離賛成に4000票余り。一方の反対は14票しかなく分離賛成の圧勝でしたが、セントクリストファー島の自治領政府が「投票は無効」と宣言して終わりました。独立後も分離活動は続き、1997年ネイビス島議会が分離独立を決議。翌年に分離独立を伺う住民投票が行われました。結果61.8%が分離独立に賛成。しかし、独立に必要な3分の2を獲得出来なかったため、この時もネイビス島の想いは届きませんでした。こんな歴史を知って改めて歌詞を読むと、この国が抱える問題が見えてきますね。

コモロ連合国歌『島々の連合』

領土問題は島国の宿命なのでしょうか。アフリカ大陸東南部、マダガスカル島とモザンビークの間にあるモザンビーク海峡に浮かぶ諸島国です。グランドコモロ島、アンジュアン島、モヘリ島、マヨット島の4島から構成されている・・・とコモロ連合は主張しています。しかし現実はこの4島のうちのひとつであるマヨット島はフランスが統治しているので実質3島をコモロ連合が統治しているというのが正しいのですが。そんなコモロ諸島の国歌『島々の連合』の歌詞からは島々の統治に強い意志を感じます。

「コモロ人の心にある同じ1つの宗教の力」

「同じ血をひくコモロ人」

「同じ宗教思想を抱く」

「マホレ島(マヨット) ヌズワニ島 ムワリ島 ヌナジジャ島 島々への我らの愛を守ろう 」

ハッキリと島名を明記し自国の領土を主張する珍しい国歌です。またイスラム教を国教し、宗教の側面からも国民の団結を促す国の方針も分かります。その想いに反してマヨット島がコモロ諸島に戻る可能性は低そうです。マヨット島はフランスからの援助や開発により住民の生活水準が他の島々より高く、コモロ諸島に帰属するメリットが少ないため。それほど島の人たちはコモロ連合に入りたいとは思っていないんですね。

歌う度に「あの島は俺たちのですよ――――」と主張するわけですからその熱量はすごいです^^;

ドイツ国歌『ドイツの歌』

領土を主張する歌詞がために歌われなくなった国歌もあります。『ドイツの歌』は4番までありますが公式に歌われるのは3番のみ。他の歌詞は国歌のふさわしいくないと、現在では歌われることはほとんどありません。その中で1番が歌われなくなってしまった理由の一つに”自国の領土を広く歌いすぎてしまっている”というのがあります。

「マース川から メーメル川までエッチェ川から ベルト海峡まで」

という歌詞なのですが、マース川は現在のオランダを流れる川なんです。これでは現在のドイツ国歌として歌ったらオランダから嫌がられます。他の部分も、メーメル川はリトアニア、エチュ川はイタリア、ベルト海峡はデンマークとどれも現在のドイツ領ではない部分が自国領だと歌われてしまっています。周辺諸国に喧嘩を売る歌詞なわけです。

しかし、これは決して喧嘩をするために作られたわけではありません。作詞者が当時バラバラになってしまっていたドイツ語圏の国々を“ドイツ連邦”として統一したいという想いから制作したためなんです。

しかし作詞家の想いに反しナチスドイツ時代には、この1番は国威高揚に使われます。そんな歴史があり現在は使用が控えられているのです。

筆者がこの歌詞の意味を知らずドイツで歌った時、近くにいた年配の男性に「歌ってはいけない」とたしなめられたことを思い出します。現代同一でこの国歌を歌う事はタブー。

 

世界には自国領を主張する国歌もあれば自国領を主張しすぎて歌われなくなる国歌もあるわけです。